イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

経済は良心的な中産階級を取り戻すことができるのか

ジョセフ・E・スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM

 ~経済学のこれまでの理論は間違っているらしいですよ~

ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授の最新作です。一貫してトランプを反知性政権としてその政策のほとんどを滅多切りにしています。まるで、アメリカの資本主義がこいつのせいで、と言わんばかりの語勢です。もちろん、スティグリッツさんなのでこれまでの歴史的な齟齬や失敗はクールに解説してるんですけど、ことトランプが登場するとなると「怒りの鉄槌」です。オバマが良かったわけではないのだけれど、政権によってここまで悪くなるとは。トランプ批判は読んでいただいたほうが実感が沸くので、それ以外のことをいくつか引用しながら、解説しますね。どうも経済学のこれまでの理論は間違っているらしいですよ。利己的で実利的な存在は経済活動の主体なんかじゃなくて、単なる強欲な詐欺師だと。

 

「標準的な経済学の教科書を見ると、競争の重要性が強調されている。なるべく低いコストで良い製品やサービスを提供しようとする無数の企業が容赦なくイノベーション競争を展開してきた。」しかし、「経済のトリクルダウンなど嘘だ。不動産業界や金融業界に支配されたそのほかの産業では一部の裕福な経営者だけが豊かになり、労働者にはなにも分配されてこなかった。」

→不公平な税制やタックスヘイブンによる租税回避など、強欲な詐欺的なことができる側と搾取されるだけ搾取される労働者というような、公平性の概念を欠いた制度が生まれる現象はアダムスミスの神の手なんていうのは倫理の天秤などを持ってはいないということでしょうか。アダムスミスはその両面があると主張したらしいですけど経済学の神様ですら強欲にはかなわないんですかね。

 

「製造部門のグローバル化は労働力のグローバルな競争を引き起こし、国内においても労働者は低い賃金に甘んじなくてはならない。だから会社は労働組合を嫌う。労働組合の弱体化は労働者と経営者の溝を深くしてきた。」

→これは共産主義が手ひどく崩壊してしまったことの反射的な影響なのだけれど、金融資本主義に染まった経営者が労働者を搾取する格好の論理となったのでしょう。労働者が生産性の高い高い給与の仕事に就くためには、教育が必要なことは言うまでもないのだけれど、教育が荒廃し形式主義に染まって効果を上げないなら、労働者が豊かになることはない。これは、日本でも同じだと思います。

 

「現代の金融資本主義社会ではごく少数の企業が利益を独占し支配的な地位を維持し、現代の金融制度は強欲な金持ちによる略奪的・詐欺的慣行によって社会を破壊してきた。」

→一体、だれが経済学でいうところの「利己的で実利的な存在としての人間」なんていう単純化したモデルを論理的に正しいとしてしまったのだろう。そんな単純なモデルで評価された「会計の数字」だけが正しさの結果だというような貧しい精神の持ち主が資本主義の勝者なのだ。スティグリッツは本来の人間は社会的存在であり、社会的な共通資本である文化やコミュニティを大切にし、搾取や詐欺を嫌い、利他的で集団を活かすものだったはずなのにと嘆いています。

 

最後にスティグリッツは言います。「まともな生活を送るために必要なことはわずかしかない。公正な報酬、生涯の保障、子供の教育、住宅の所有、負担にならない医療と言ったことだけだ。」彼は、こうしたことを行政や規制という「利益に無頓着な」存在によって実現するべきだと主張します。保険や給付というようなことを実行する民間の利益団体が手数料や金利を課すことで企業が多くの人たちを搾取するようなしくみではなく。