イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

IBM Distinguished Engineerだったもの(いわゆる退職エントリー)

IBM Distinguished Engineerだったもの(いわゆる退職エントリー)

私事ですが、33年勤務したIBMを退職することにしました。2007年にエンジニアの最高職のIBM Distinguished Engineerに指名され最高の栄誉をいただいたこの会社に対して、深く深く感謝させてください。本当にありがとうございました。私のテクニカルキャリアは順調満帆だったわけではないですが、多くの素晴らしい仲間に恵まれてとても充実した技術者半生を送らせていただくことができました。

 

着任以来先輩たちはずっと私に指導をしませんでした。だから、私は自分で考えて動かさせてもらえました。自分で学んで考えたことは自分で責任をもってやり遂げるしかない、これが先輩たちの教えだったと思います。部門や個人の目標数字や与えられた職責というようなKPIベースのノルマではなく、考えるチームは非常に強いと実感しています。KPIの追及は業務効率は良いのですが、変化に弱いしモラルも下がってしまいます。また、KPIさえ達成すればよい、あるいは営業の数字のためには正しくない行動でもいい、という誤ったメッセージになってしまいます。KPIの達成は会社の価値(バリュープロポジション)を追求し、お客様と社会に迎え入れられた結果であるべきです。そういう意味で、考えるチームは素晴らしいパフォーマンスを残せると思います。

 

技術的にも非常に素晴らしい環境を提供していただきました。常に新しい技術やアプリケーションにチャレンジさせていただく、理解のあるお客様に囲まれて技術の正常進化を見続けることができました。アプリケーションの時代からオープンシステム、インターネット、ネットワークサービス、クラウドコンピューティングと幅広い経験を最先端で学び続けることができたのは人生にとって非常に豊かな時間でした。会社は求める数字ができるからと言って安易なシステム設計やお客様のためにならない提案を決して強制することはなく、不確実性の高いIT業界において最善のサービスを提供できる環境を整えていました。私のチームは最高のチームだったと誇らしく思います。

 

会社の中には20%ルールのように有名ではありませんが、業務外の技術分野であってもエンジニアが自由に技術や社会について研究、ディスカッションする場がありました。テクニカルコミュニティーという文化です。自由な研究の場が与えられていることで、チームは幅広い多様性を維持することができ、組織は変化に対応する柔軟性を内包することができます。米国本社を含め、IBMの経営者はテクニカルコミュニティーを信頼し経営課題を諮問しては、私たちの答申を真摯に実行してきました。企業の経営と社会にインパクトを与えるエンジニアリングを実践する場であったと思います。いかに目前の数字に影響があろうともテクニカルコミュニティーの警告や進言を無視しない企業経営者は非常に立派なものだと思いました。世界中に広がる技術者集団を「仲間」として共に切磋琢磨したテクニカルコミュニティーの時間は惜別の思いです。

 

多くの皆さんに支えられ、また応援していただいて定年退職を迎えることができて本当に幸せです。退職後は個人事務所で業務を開始いたします。これまで同様、システム分析設計、レポート作成、原稿、セミナー勉強会、プロジェクト支援等、皆様には変わらぬお付き合いをいただきたく、お願い申し上げます。

 

山下技術開発事務所 合同会社

YAMASHITA Technology & Engineering Office LLC.

代表 山下克司

IBM Japan - HQ