イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

欲望の資本主義 特別編 生き残るための倫理が問われる時(視聴メモ)

NHK BSスペシャル 2021年9月23日放送 

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欲望の資本主義 特別編 生き残るための倫理が問われる時(視聴メモ)

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<世界の不均衡>

ミノーシュ・シャフィク 元IMF理事/世界銀行副理事はワクチン不均衡を緩和するための資金援助、経済回復を加速するためのIMF特別引出権(SDR)の低所得国への拡大支給など不均衡是正の必要性を指摘する。それも、リベンジ消費からの回復を止めてしまうリスク回避。東南アジアの生産停滞や流通停滞によるサプライチェーン崩壊が製造業の息を止めてしまうリスクは顕在化している。

一方でランディ・ザッカーバーグマーク・ザッカーバーグの姉)は、戦後のチャーチルの「せっかくの危機を無駄にしてはいけない」とばかりに、コロナ後に回復する領域(ブロードウェイやZoomからの募金やブロックチェーンなど)に投資している。投資先はInnovationとData、競争へのPassion←貪欲さ?への投資である。

<日本国内における経済回復>

早川英男 元日銀理事はパンデミックにおける日本の意外な税収の伸びを支えているのは製造業中心の利益拡大であり、しかしそれは売上の伸びではなく販売管理費の減少(出張・交際費)が効いている。つまり、大企業は伸び、中小の飲食・観光は沈んでいく。番組でのポストコロナへの現状分析では以下の点が指摘されている。

・倒産件数:飲食、観光、インバウンドへの依存
・2020東京オリンピックが悪いのか?
・事業のM&A継承〜公的支援債務による事業のゾンビ化を避ける
労働生産性ほとんど上がっていない

チェコスロバキア経済学者トーマス・セドラチェクは日本の高い教育、勤勉な労働者による経済発展のにもかかわらず失われた20年に突入し、先進国の中で唯一、経済成長を達成していないと指摘する。現在、日本はDEPT Driven (負債主導)の経済へと舵をきり、政府経済支援は負債の限界に挑むMMT(現代貨幣理論)に繋がっている。

<資本主義経済への規制>

ブランコ・ミラノヴィッチ NY私立大学教授は米中の技術開発への規制姿勢は同じで、独占禁止、労働者と資本家の税負担の公平などの社会的再配分方針に基づいていると指摘している。しかし、格差解消のための施策が株高への期待を呼び起こし、格差が広がるパラドックスも目立つ。チェコスロバキア経済学者トーマス・セドラチェクは競争は勝者と敗者をつくり独占は避けられないとし、競争の外側から敗者を救うセーフネットを提唱している。そこでは政府はもう機能せず、個人の道徳と業界の自主規制が頼りという心もとない環境だ。

デジタル技術の独占(無形資産:限界費用ゼロ)はタクシー運転手を敗者にする
・タクシー運転手のギルド(基金)を作るべき
・開発者は「悪質なアルゴリズムは作らない」というマニフェストを作るべき

ブランコ・ミラノヴィッチ NY私立大学教授は共産主義滅亡後の資本主義社会は一つではなく、次のような分類ができると分析している。

・民主的なリベラル(平等化) 能力(差別化) 資本主義
・経済に影響を与える政治の力が強い、政治的資本主義

しかし、強大な監視能力を独占するテクノロジー企業とデジタルの利益配分をコントロールしたい国家という構図は相似系で、米独占禁止法による規制(リナ・カーン)と中国(共同富裕における資本規制)は同源だと指摘している。また、巨大テック企業は、法律を悪用するためのロビー活動を行うレントシーカーであって政治の行方を支配している。

こうした独占の構造の中で富める資本家の子孫は与えられ、能力主義は不平等な優位性の再生産が問題となっている。そこでミラノヴィッチは将来の資本主義の姿について、民衆資本主義(労働所得と資本所得の共存)を提唱する。労働者の資本投資促進が資本の独占を分散させることができ、またストックオプションが労働者に資本を分配する機能を果たす。セドラチェクは自身が共産国家出身であることを念頭に、保険が共助の仕組みであることから保険は自発的な共産主義であると指摘した。そして、事業における保険によってイノベーションの利益を配分することで能力に応じて働いた者がリスクに応じて収入を得られる仕組みを想像して笑顔を見せた。

<監視資本主義とテクノロジー規制>

盗まれた個人のセンチメントやエモーションが予測商材とする、監視的情報資本の集積により利益を生み出す監視資本主義に警鐘を鳴らすのは、ハーバード・ビジネススクール 社会心理学者ショシャナ・ズボフだ。GAFAMのデジタル企業は深く監視テクノロジーと関係していおり、その独占は「知のクーデター」によって起こっているが、違法な監視によって支えられている。巨大テック企業は責任(納税も将来も)を負わない権力をふるい、独占の利益を享受している。現代人類はまだデジタル時代の民主主義を安全に保つために必要な権利憲章や法律 制度を持っていない。ティム・バーナーズリーは個人情報保護強化ブラウザーで巨大テック企業に対抗するとしている。しかし、現代のイノベーションのほとんどがGoogle ChromeHTML5/JavaScript/CSS3やQUIC+、FacebookGoogleのアドテク、Amazon Web Serviceのクラウドネイティブなアプリケーション環境に支配されている現状に対抗するのは難しい。オックスフォード大のコリン・メイヤー教授によると、企業は人工知能を用い人間の知識だけではなくアルゴリズムでの競争に突入するが、その経済競争をどのように評価すべきか考える時にきていると技術の社会的受容性議論の重要性を指摘している。

<企業が生き残るための処方箋>

オックスフォード大のコリン・メイヤー教授は企業が生き残るための一つの処方箋として利益を出しながら課題を解決する〜社会善とビジネスの継続を目指す「企業が存在し続けるためのパーパス」をあげた。ミルトン・フリードマン「利益追求が企業の目的である」という資本主義の限界を迎えた時代において、株主資本主義がコストと利益の対立構造であったのに対して、コスト・ESG・利益のトライアングルは企業が社会に対峙する覚悟(目的)を訴える。企業は自ら引き起こした(労働問題、環境問題、監視問題などの)混乱の後始末にかかるコストを負担すべき(社会へのフリーライダーではいけない)。「泥棒の巣窟での競争が生み出すのは優れた泥棒である」と競争による資本主義は倫理なしには機能しないと指摘した。

 <銀行は交換経済の監督官(シュンペーター)>

「鍵は正直者を正直に保つ」他人の自転車には鍵がかかっているから盗んではいけないと知ることができる〜銀行は自らの経済行動に倫理は持ち込むことができるか。

イノベーションには銀行の信用創造が欠かせない(貸付によって貨幣を作る=銀行の負債)。日独の銀行は長くスクリーニング(融資判断)とモニタリング(株式保有)の二つの機能を果たし、イノベーションを支えてきた。しかし、銀行の株式資産保有は融資という面では利益相反である(ミノーシュ・シャフィク)というグローバル経済の倫理によって役割を終えた。早川は不良債権処理が最大の関心事だった金融ビッグバンの歴史を振り返った。護送船団方式をクリーン、フェア、グローバルという掛け声で解放した金融機関だったが競争と破綻、合併なの大きな影響を引き起こし、大銀行を中心に失敗を恐れ縮む心が預金を膨らませる長期デフレという失われた20年で不安がお金の足を止めてしまったと指摘した。

セドラチェクは信用が失われた社会の不安で動かなくなるお金に対し、デジタル貨幣における金本位制(交換の手段→信用の創造)のような金融方針の変化が必要だと主張している。

早川はまた、GPIFなどの長期投資を取り扱う金融機関について、巨大金融機関は外部がないと指摘、ESGなどの競争は外部から持ち込まれESGは長期資本のコンサーンであると指摘した。金融機関がGreen企業|国家 vs. Brown企業|国家という新しい競争をどのように演出し企業に倫理の圧力を示すのか、これからも注目が必要だろう。