イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

欲望の資本主義 第三弾 「偽りの個人主義を超えて」

欲望の資本主義 第三弾 「偽りの個人主義を超えて」を書籍化。The FourでGAFAを厳しく批判したスコット・ギャロウェイ、その後に暗号資産の将来の賛否を述べてから、ユヴァル・ノア・ハラリがホモ・デウスで述べたような技術の静かな暴走がもたらすディストピアを警告します。そして、気鋭の哲学者マルクス・ガブリエルの新実在論から見た経済と社会を語った記録です。ハイエクの語った新自由主義は本当に自由な経済人によるものだろうか、中央政府による支配を語るケインズは正しいのだろうかという疑問をなぞっていく形で進みます。 

エクゼクティブ・プロデューサーである丸山俊一氏が記すあとがきでは、ハイエク新自由主義デュルケームの連帯と分業(私たちにはマイケル・ポーターバリューチェーンというような俗っぽいものの方が馴染みやすいが)の論考から、組織を離れた個人の自律的な連帯が語られます。しかし、インターネットが目指した公平なピアツーピアで自律的な理想はうち倒れ、GAFAのような存在は中央集権的に人々を支配しています。ハイエクは「社会における知識の利用」において完全な情報は集中的に統合された形では存在しないがゆえに中央集権的な計画経済による統制は失敗すると主張しましたが、今GAFAのような存在が世界の欲望にかかわる完全な情報を持つのであればレオニード・カントロビッチが『経済資源の最適配分論』で述べたように計画経済が社会に高い効率をもたらすのではないか、と論じたのは「プラットフォーム革命(Modern Monopolies)」を書いたアレックス・モザド達です。社会主義的な計画経済が超効率を社会にもたらした限界費用ゼロ社会は、個人の自己決定の余地を残してくれるのでしょうか。すべての物や行為にプライスタグをつけようとするトランプのような経済的存在に対して、個人は真実を体現する”時間”という価格につながらない価値を見いだすことができればこの経済という呪縛から逃れることができるのでしょうか。


丸山俊一氏はさらに、自我の存在を語るダニエル・デネット「心はどこにあるのか」を示し、心は脳にだけ存在するという心身の二元論を否定する。IBM TEC-Jプレゼンツ「知性の勉強会 第二弾 意味とはなにか知性のアーキテクチャ」では、自我は意識の中にあるけれども、意識は自我という枠の中に存在するのではなく、意思を持たない小さな生命体の群生とその分散的な制御のなかにあるのかもしれないという議論をしました。経済的な行動との結びつきはまだよくわからないですけども。