イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

「電気通信事業における競争ルールの包括的検証」レポート(後半)

Interop Tokyo 2019 総務省総合通信基盤局の谷脇局長による「電気通信事業における競争ルールの包括的検証」を総括するというセッションの後半はDFFTとネットワーク中立性に関する議論。(前半はこちら


「信頼できるデータ流通」の議論はSociety 5.0においても重要な課題とされてきた。参考文献として示されたのはレイチェル・ボッツマン の「TRUST」だ。サイバー空間のトラストは分散型のトラストであり、大きく5つの領域にまたがっている。1つ目は個人の正当性でありID Credentialである。続いて企業や組織の正当性、モノの正当性の課題がある。残りの二つの領域は通信の領域で、通信が改ざん盗聴されないということと、確実に届き送達が確認できるということだ。フェイクニュースのような信頼性の低い情報にかかわる規制は表現の自由との関係が重要になってくる。デマや誹謗中傷を芸術や批判的風刺の中から見抜くのは難しい。ドイツではナチズム排除のための表現を規制する法律があり、デマを禁止している点も注目される。今後は、どのようにファクトチェックを行っていくか技術的、組織的な取り組みを注視する必要がある。

 

「ネットワーク中立性」は、OTT事業者によるビデオ配信やIoTデバイスのバースト的なトラヒックがネットワークの帯域を圧迫し輻輳してしまうという課題である。帯域に対して投資すべきなのは、OTT事業者か広告主かあるいは通信事業者なのか、明確な答えが求められている。谷脇局長はインターネットが本来ベストエフォートで自律分散的な管理が行われてきていることは承知しているとしながらも、輻輳時のシェーピングや優先制御の必要性や、ゼロレーティングやスポンサードデータなどについてなんらかの基準があってもよいのではないか、と指摘した。歴史的にはかつてピアツーピアネットワークが流行した時に有線ネットワークに関する帯域制御ガイドラインがあったが、モバイル通信が大半を占める通信環境においてどうすべきかを検討する必要がある。トラヒック制御の一つは輻輳時ヘビーユーザーを制限して有限資源を公平に割り当てる公平制御、もう一つは優先制御に関するガイドラインだ。しかし、優先制御を規制するといっても今後は5G通信機能としてスライシングが当たり前に行われるようになるなどモバイルの技術動向にも配慮が必要だ。

ゼロレーティングはコンテンツプロバイダー間の公平競争という視点とOTT事業者の公平負担という視点がある。電気通信事業法のなかで規制を行うのかというと事業を萎縮させてもいけないので、ある意味で解釈ガイドラインのようなもので各事業者の動向に配慮しつつ様子を見て、先回りしないように協働していく対応が求められている。ネットワーク輻輳についてはトラヒックの把握が重要で、東京のインターネットエクスチェンジと地方に分散しているインターネットエクスチェンジ、CDNを通じたトラヒックなどの実態をどのように把握するか、モニタリングについても今後の課題となる。地方のインターネットトラヒックについて考える一つのことは、ユニバーサルサービスの負担についてだ。ユニバーサルサービスはこれまで電話に対して行ってきたものであるが、今や国民生活にとって必須サービスとなったインターネット接続について地方行政と連携して議論をすすめる必要があるのではないかと考える。

 

5Gモバイル通信について谷脇局長は広帯域化(eMBB)だけではなく低遅延高信頼性通信(uRLLC)や大量の端末(mMTC)についても進めていくことが大事であるとし、今後の新しい取り組みに期待を示した。無線通信の試験的な取り組みのスピード感を上げていくために行ったのが、技適を180日間届出制とした電波法改正だ。次に取り組むべき電波行政の改革は動的帯域割当で、時間単位で周波数の割当を変えるような仕組みだ。周波数の割当変更は本来、民間同士の交渉が前提となっており一つのバンドを共用している事業者同士の取引として時間別に利用するなどの対応になる。