イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

スキルを外部に発信すること(外部講演など)

このブログでは企業に勤務しているITエンジニアの働き方やスキルの活かし方というような視点で、会社で働くだけではない「働き方改革」に迫っていきたと思います。

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政府は「働き方改革」として正社員の副業や兼業を後押しするとしています。サイドワーク的な副業だけではなく複数の触手を兼務する複業にも注目が当たっています。企業が就業規則を定める際に参考にする「モデル就業規則」から副業・兼業禁止規定をなくし 「原則禁止」から「原則容認」に転換するということも複業を推進しているように思われます。サイボウズなどの先進IT企業では「会社の資産を毀損しない限り報告も不要」としている。

ITエンジニアにとっ て、多様な価値観を得ることができる機会が増えることはとても重要だと思います。外部活動としての執筆やセミナー講師、コミュニティにおける仕事など、外部の技術に触れる機会も多くなり、協働するコミュニティにおける個人の スキルや価値の変化も期待できます。会社にとっては会社に依存した存在である社員エンジニアが兼業をすることで独立したプロ フェッショナルとなって、時間的な生産性に敏感になり本業の生産性が向上、スケジュールなどサービス品質の向上が見込めるのではないでしょうか。

 

IBMのテクニカルコミュニティであるTEC-Jでは、外部にあるコミュニティや学校、大学に自分たちのスキルを活かした支援を行ってきています。

2016年度は日本全国のたくさんの大学に、イノベーション、セキュリティ、ビッグデータ、ネットワーク技術、建築技術などの講義を行いました。2017年のスプリングローラムでは、16名の大学講義を担当したTEC-JメンバーをUniversity Relation貢献賞を授与しました。

 

TEC-Jプレジデントの私も富山県立大学の公開連続セミナーにおいて「消費と生産をつなぐサイバーフィジカルの二つのループ」という講義を行いました。日本情報処理学会で行った講義をご評価いただいて、この連続セミナーに登壇されている東京大学大学院 情報理工学系研究科の江崎浩教授のご推薦をお受けしたのがきっかけです。これまで、プロフェッショナル向けに話して来た内容を大学および一般市民のみなさんにわかりやすくお伝えするにはどうするか、という点で周到に準備をしました。

IoTやIndustrie4.0などで激変する製造業へのデジタル技術の広がりが生産システムとデジタルのデマンド・プルシステムを融合して行くCPS(サイバーフィジカルシステム)の成立について大学院生と地域から参加されたみなさんにお伝えしましたが、わかりやすい身近な事例を引きながら解説したので、だれも睡眠に引き込むことなく終えることができました。会場からも質問をいただいて活発な講演になったのが印象的でした。

学生や一般市民の皆さんにはバズワードになりやすいIoTやAIなどの技術について理解を深めるのは難しいです。最新の研究や現場での取り組みよりもマスコミやネットの浅く偏った情報で理解するしかないからです。現場での取り組みや最新の研究をわかりやすく伝えることができて、本当によかったと思います。

この講義の後に、TEC-Jでは江崎先生を招いて招待講演をいただきました。その招待講演の企画を行うにあたり、このときのCPSのデジタル優勢な概念が江崎先生の提唱する「インターネット・バイ・デザイン」によるシステムの将来像となるだろうという意義深い議論をさせていただくことができました。その議論は江崎先生が「サイバーファースト」という書籍にまとめられています。日本を代表する知の巨人に影響を与えることができて、とても素晴らしい体験となりました。

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(サイバーファースト デジタルとリアルの逆転経済 (#xtech-books(NextPublishing))  江﨑 浩 http://amzn.asia/hONgoQz

 

もう一つ、10年来続けてきたIBMユーザー研究会対象の「論文書き方セミナー」をTEC-J/AoT公開講座として開催しました。IBMのユーザー企業の皆様にはいつも好評をいただいているのですが、枠を外して見たらどうだろうかと試して見たくなったのがきっかけです。第一部は私が「論文書き方セミナー」で論文を書く意義や実践的な論文の執筆ガイドを行い、第二部は楽天株式会社吉岡弘隆さんから名著「理科系の作文作法」の解説をいただくセミナーを行いました。

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外部のコミュニティでの告知や集客、コンテンツの打ち合わせなどFacebookを中心としたコミュニティでの運営がとても楽しくやらせていただきました。資料公開もとても好評で、自分がやってきたことが認めてもらえたようでとても嬉しく思います。

 

www.slideshare.net

AWSの元エンタープライズエバンジェリストの渥美俊英さんは参加されて、こんな意見を公開してくれました。

「いつか技術作文で論文を」論文とありますが、何かに貢献する自分の考えを文章化する場合の重要なポイントを聞けました。IBMという会社の底の深さを感じます。後半は「理科系の作文技術」1981年初版から30年以上たっても価値ある内容。理科系とありますが論理的な文章を書くための必読書、即ポチリ。続く懇親会では外では聞けない業界話題など。あわせて知的興奮を覚える一晩でした。山下さん、吉岡さん、関係ご各位、ありがとうございました。」

また、一緒に講義を担当してくださいました伝説のエンジニア、楽天の吉岡弘隆さんにも、「理科系の作文技術」をネタにヨタ話をさせていただいたのだけど、パラグラフを意識して書くとかトピックセンテンスをパラグラフの第一文に置くとかのテクニックを共有できてよかったです。会社内の技術コミュニティでエンジニア向けに論文の書き方セミナーをして100人を超える人が集まるというのもすごいし、エンジニアを育てようという山下さんのような人がいっぱいいるという会社もすごい。IBM Systems Journalを筆頭に論文誌を持っているのも技術の会社としてはすごいと再認識した次第です。」というコメントをいただきました。

 

こんな活動を通じて、IBMという企業内で閉じがちなテクニカルコミュニティを外部コミュニティでの活動を通じて広げて行くことができたらいいと実感できています。