イノベーションの風に吹かれて

山下技術開発事務所 (YAMASHITA Technology & Engineering Office, LLC)

福山ミステリー文学新人賞 「神の手廻しオルガン」須田 狗一

増田 博己 (Hiromi Masuda)さん、新作発表、福山ミステリー文学新人賞受賞。著作開始からなんと3年でこの快挙!!文学作品にミステリーの手法という手技を堪能したい。

 

 主人公 吉村学はIT企業のエンジニアを定年退職したシニアライフのやるせない浮遊感を趣味である推理小生の翻訳に費やしている男だ。その吉村がポーランド旅行から巻き込まれた事件を描く謎解きは、翻訳文や手紙といった形で語られる。吉村の語る端正で論理的な文章はまさ卓越したエンジニアのものであり、吉村が日本を代表するソフトウェアエンジニアであったことを彷彿とさせる。さらに物語をぐいぐいと引っ張っていく筆致は吉村の頭脳とリーダーシップの証であるだろう。物語は残虐な殺人と凄惨なアウシュビッツ捕虜収容所そして陰鬱なポーランドの風景のなかで展開するが、吉村とその妻の善良さと飄々とした立ち居振る舞いが全体の雰囲気を救っている。
テンポよく進んでいく物語は、第二次世界大戦当時と現代の二つの地点で起こる事件を紡ぎ、織り重なりながら一つの謎解きへと収斂していく。中盤の新たな事件、解き明かされないまま置かれた謎が適度に配置されているのは現代的なミステリーの定石だが、伏線を適度に回収しつつ進んでいく物語のうまさに気持ちよく流され読み進むことができる。福山ミステリー文学新人賞の選評で島田荘司が感嘆したという、文学の衣を纏ったミステリーという手技を堪能した。

神の手廻しオルガン  須田 狗一

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